西加奈子さん

この間、ふと思い出した光景がある。

ある街の雑踏の中で不思議な感じの人たちが奇抜なことをしているところで、いつどこでこんな場面を見たんだったかなあと思っていたら、西加奈子さんの小説のワンシーンだった。

好きな作家はたくさんいるけれど、現実と錯覚するくらいまざまざと鮮明な「記憶」を脳裏に刻みこむことができるのは、私にとっては西加奈子さんだけだ。西さんの書く文章は、からだに直接うったえかけてくる。細胞の奥深くまで揺さぶるような力強さ。そして、ものすごくどぎつくてカラフルで美しい。

最近、10年ぶりくらいに(もうそんなに!と自分でショックだった)『さくら』を読み返してみたら、さすがに細かいところは忘れていたけれど、読んでいるうちにいろいろなからだの感覚が蘇ってきて、この人の本は本当に体験なんだなあと思った。

もちろん小説は、どれも想像力の中で体験するものだ。でも、においや質感まではっきり思い出せるような文章はなかなかない。

しばらくぶりに会う長谷川家の人たちは、みんなやっぱり一生懸命で、暑苦しいほどに誰かを愛していて、愚かで必死で、かっこよくて、ああ、あなたたちがいてくれてよかった!と思った。そして、犬のさくらは相変わらず、すごくやさしくて愛らしかった。

小説家とその作品はイコールではないのはわかっているけど、西さんの見る世界はきっとやっぱり、どぎつくてカラフルで美しくて、暑苦しいくらいの愛にあふれているんじゃないだろうか。そこでは、犬や猫や植物や鳥や文房具や、いろんなものがおしゃべりしてるんじゃないだろうか。

そんな風に思いたくなるくらい、想像と現実の世界を混ぜこぜにしてくれる西加奈子さんの作品が、私は本当に好きです。

どれもほんとうに良いけれど、個人的なおすすめは、『さくら』、『漁港の肉子ちゃん』、『サラバ!』と『きりこについて』です。